2023/09/03 #501 「機動戦士ガンダム完全講義 第40話「エルメスのララァ」その3、8月に観た映画レビュー・8月の(未)読書レビュー」
SWITCH 9月号『ジブリをめぐる冒険』
「SWITCH 9月号『ジブリをめぐる冒険』」について
この特集の中心は、鈴木敏夫さんのインタビュー記事です。特に宮崎駿監督の過去について語られるエピソードがユニークです。たとえば、「『君たちはどう生きるか』を読んだのはいつ?」という質問に、監督は毎回異なる答えを返すそうです。彼は「今・ここ」にしか興味がないため、昔のことに執着せず、その場で面白いと感じた話を語るのだといいます。
また、『君たちはどう生きるか』に登場する塔のモデルについて、スタッフ間では「ジブリではないか」という説が有力ですが、監督本人には聞けないとか。宮崎監督はこの手の質問に怒ることがあり、答え合わせが難しいそうです。
**解釈を楽しむという視点**
鈴木さんは、作品の背景や意図を監督に直接尋ねることは重要ではないと語ります。映画やアートは観客が自由に解釈し、議論することで意味が形作られるものです。そのため、特集は「公式の答え合わせ」を求める人には最適な資料であり、解釈を楽しむ人には新たな視点を提供する内容となっています。
『僕のアメリカンムービー』
大林宣彦『僕のアメリカンムービー』について
大林宣彦監督の著書『僕のアメリカンムービー』(1980年)は、古い本ながら映画好きにおすすめの一冊です。この本では、大林監督が映画『未知との遭遇』を独自に分析しており、スピルバーグ監督がなぜこの映画を作ったのか、何を語ろうとしたのかを鋭く語っています。その中で唯一の「計算違い」として挙げられるのが、『スター・ウォーズ』との同時公開です。大林監督はスピルバーグ本人や関係者への取材をせず、同じ映画監督としての経験から、この分析を語り尽くしています。
**映画監督の言語化の凄み**
大林監督の視点は、映画監督ならではの鋭さと明快さが際立ちます。このような評論を読むと、映画監督が言葉を使って論理的に語る力のすごさを感じることができます。大林監督の他にも、押井守や伊丹十三の映画論を好む人には、ぜひ手に取ってほしい内容です。
**岡田斗司夫に影響を与えた三聖人**
岡田斗司夫さん自身、この大林監督の評論から大きな影響を受けており、自身の映画語りの原点の一つであると語っています。他に影響を受けたのは池田憲章、橋本治という二人で、これら三人を「三聖人」として挙げています。
『Dr.マシリト 最強漫画術』
『Dr.マシリト 最強漫画術』
鳥島和彦氏による『Dr.マシリト 最強漫画術』は、天才編集者として知られる彼が売れる漫画の作り方を指南する画期的なガイド本です。実際の執筆・校正は霜月たかなか氏が担当しています。この本の特徴は、漫画家が描く「作家目線」ではなく、編集者として「売れる漫画」にフォーカスしている点です。
**売れる漫画を生む編集者の視点**
鳥島氏は、鳥山明をデビューさせ、ヒット作家へと導いた編集者としても有名です。本書では、鳥山明が「自分の描きたい冒険漫画」を描いて失敗したエピソードを紹介。編集者としての鳥島氏が「格闘漫画にすれば売れる」とアドバイスした結果、『ドラゴンボール』が爆発的な成功を収めた事例が語られています。このように、「作家のやりたいこと」ではなく、「市場が求めるもの」を見抜くのが鳥島氏のスタイルです。
**具体的なテクニックと独自性**
本書では、漫画作りの具体的な技法を詳細に説明しています。たとえば、キャラクター設定では以下の要素を重視しています: - **身長差** - **顔・名前・口癖** - **ポーズ・仕草** また、「漫画とは読みやすさだ」と強調するものの、この本自体は少々読みにくいという自己矛盾がある点もユニークです。それでも、漫画だけでなく表現を志すすべての人にとって学びが多い内容となっています。
**すべての表現者におすすめ**
鳥島氏の教えは漫画だけにとどまりません。YouTuberや他のクリエイターにも通じる「わかりやすさ」の重要性を説いています。たとえば、定番の決め台詞や目を引く衣装は、視聴者に覚えてもらうための工夫です。岡田斗司夫さん自身は「衣装を毎回変えたり、テーマを変える」スタイルを貫いていますが、それとは真逆の「ブランディング」の大切さを学べる内容です。
『踏切の幽霊』
高野和明の『踏切の幽霊』は、1994年冬の東京・下北沢を舞台にした社会派ミステリーです。
都会の片隅にある踏切で撮影された一枚の心霊写真。
同じ場所で列車の非常停止が相次ぐ中、雑誌記者の松田は読者からの投稿をもとに心霊ネタの取材を開始します。
しかし、調査を進めるうちに、幽霊事件の背後に暴力団や大物政治家の影が見え隠れすることに気づきます。
果たして、殺された女性の正体とは?
そして、なぜ彼女は命を奪われたのか?
松田の追求は、幽霊事件にまつわる思わぬ真実へと迫っていきます。
本作は、第169回直木賞候補作にも選ばれ、ホラーとミステリーを巧みに融合させた作品として評価されています。
また、主人公・松田の再生の物語としての側面も持ち、読み応えのある一冊です。
『中央線怪談』
『中央線怪談』は、吉田悠軌氏による実話怪談集で、JR中央線の東京~高尾間に位置する各駅周辺で起こった怪異を収録しています。
著者自身が沿線住民であり、その視点から地域に根ざした恐怖体験を鮮やかに描き出しています。
本書には、以下のようなエピソードが含まれています:
「野方の蒸発アパート」(中野):内見せずに入居したアパートの部屋に、前の住人の家財道具がそのまま残されており、不気味な雰囲気が漂う。
「井の頭公園の首無し女」(吉祥寺):深夜の井の頭公園で、頭部のない女性の幽霊が目撃されるという恐怖の体験談。
「四谷のソフィア稲荷と泣く女」(四ツ谷):有名大学の敷地内にある稲荷神社で、夜な夜な泣く女性の霊が現れるという奇妙な出来事。
「杉並のタイラ荘」(高円寺):とある怪物件の恐ろしい調査記録が綴られ、読者を戦慄させる。
これらのエピソードを含む全33話が収録されており、中央線沿線の街々に潜む怪異を余すところなく伝えています。
都市伝説や心霊現象に興味がある方には、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。
『怪獣保護協会』
物語は、コロナ禍で職を失った主人公ジェイミー・グレイが、ひょんなことから「怪獣保護協会(KAIJU PRESERVATION SOCIETY)」の一員となり、並行宇宙に存在するもう一つの地球で怪獣たちの保護活動に従事するというものです。
この並行世界では、怪獣たちが独自の生態系を形成しており、彼らの体内には原子炉が存在するというユニークな設定が描かれています。
物語は終始コメディタッチで進行し、軽快な会話やユーモアが随所に散りばめられています。
また、現実の社会情勢や出来事が反映されており、読み応えのある作品となっています。
登場人物たちは個性的で、各々が専門性と誇りを持った研究者として描かれています。
特に、性別が明確にされないキャラクターが存在するなど、多様性への配慮も感じられます。
さらに、日本の怪獣映画へのオマージュも多く含まれており、怪獣ファンにはたまらない内容となっています。
全体的に、軽快で読みやすく、エンターテインメント性に富んだ作品です。
特撮やSFに詳しくない読者でも楽しめる内容であり、怪獣愛に溢れた物語が展開されています。
『ゴジラ大解剖図鑑』
『ゴジラ大解剖図鑑』は、怪獣そのものの魅力だけでなく、各映画作品の制作背景や、怪獣デザインがどのように進化していったのかについても詳細に解説しています。これにより、怪獣デザインが物語の展開や時代背景にどのように影響を受けてきたのかを学ぶことができます。
特筆すべき点として、西川伸司氏が語る「デザイン哲学」や「ゴジラという存在の持つ文化的意義」についても深く掘り下げられています。西川氏自身がどのようにアイデアを得て、怪獣の造形に込めた想いをどのように形にしてきたのかを知ることができるのは、他のゴジラ関連書籍にはない特徴です。
さらに、本書では怪獣の解剖図的な側面も楽しむことができます。たとえば、ゴジラの放射熱線を放つ仕組みや、モスラの翅がどのように羽ばたくのかといった、ファンタジーでありながらもリアリティを追求した設定の数々が、イラストとともに詳細に解説されています。
また、怪獣たちが登場する映画のあらすじや、シーンごとの見どころなども記載されており、ゴジラ作品を再度視聴する際のガイドブックとしても活用できます。この図鑑を片手に映画を観ることで、怪獣たちの背景や設定をより深く理解することができるでしょう。
『ゴジラ大解剖図鑑』は、ゴジラというキャラクターの歴史を網羅しながら、怪獣映画が持つエンターテインメント性と深みを再発見させてくれる一冊です。怪獣好きにはもちろんのこと、映画デザインや特撮のファンにとっても、長く楽しめる宝物のような一冊です。
本書は、ゴジラを中心にした特撮文化の歴史と魅力を、ビジュアルとテキストの両面で楽しめる絶好の資料です。ゴジラ愛を深めたい方には間違いなくおすすめです。
『エアロプラン・カプローニ』